VC投資家にとっての配当権の意義
配当を確保することによって、VCはダウンサイドの場合のプロテクションをある程度確保することができます。しかし、公開会社と違って、キャッシュに乏しいスタートアップ企業への投資に用いられる優先株式に対して、金銭での配当が支払われることは通常ありません。
したがって、経済的にはタームシート上あまり重要な規定ではないとも言えます。
VCにとっては、持分の過半数を有する普通株主が配当を決議することによって、会社の価値を収奪することを防ぎ、エグジットの際のVCへの分配額(Liquidation Preference)をなるべく多く確保するという観点から、配当に関する権利を交渉することがより重要なポイントとなります。
配当権の規定例
NVCAのモデルタームシートでは、3つの選択肢が規定されています。
① 普通株式と同列
配当は、普通株式に対して支払われる際に、シリーズA優先株式に対して、転換株式数ベースで支払われます。
この場合、優先株主は、普通株主と同列で配当を受領することになります。
VCにとってのリスクは、普通株主が取締役会を支配している場合に配当が決議されてしまうと、エグジット時にLiquidation PreferenceとしてVCが受領するはずであった価値の一部が、プロラタで普通株主に移ってしまう(普通株主は配当受領後、会社を清算することもできる)という点にあります。
したがって、過半数の持分を持たないVCは、配当分配に関する拒否権(veto rights)を持つよう交渉することが重要になります。
② 累積型優先配当及び参加型配当
年間一定の%の累積型優先配当、及びその他の配当については参加型配当となります。
第一に、優先株主は、累積した一定%の配当を優先的に受け取ることができます。清算または償還時に、それまで累積した配当を得ることができるという取り決めも可能です([ ]内の記載)。
第二に、それ以外の配当については、優先株主に参加権(Participation)が認められています。すなわち、優先株主は、累積型配当に加えて、普通株主に分配される配当に対しても、希薄化後ベースで権利を有することになります。
Alternative 1に比べると、累積型配当の分が上乗せされていることになりますが、取締役会を支配する普通株主による会社価値の収奪というリスクはAlternative 1と同様に存在します。
③ 非累積型優先配当
取締役会で決議された場合に、1株当たり一定額の非累積型優先配当が優先株主に分配されます。
この場合、普通株主への配当は規定されていないので、Alternative 1, 2に比べて、普通株主による会社価値の収奪のリスクはありません。