パンデミック期間中の企業買収禁止法案(Pandemic Anti-Monopoly Act)

米国民主党によるパンデミック期間中の企業買収禁止法案の提出

2020年4月28日、米国民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員とアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員は、パンデミック期間中の企業買収を禁止する法律(Pandemic Anti-Monopoly Act)を提出する計画であることを発表しました。

Pandemic Anti-Monopoly Actは、FTCが、中小企業や労働者、消費者が厳しい財務状況から脱したと決定する(determined that small businesses, workers, and consumers are no longer under severe financial distress)までの間、企業・ファンドによるM&A取引を中止させることを企図しています。

以下の基準に該当する企業がPandemic Anti-Monopoly Actの対象となるものとされています。

  • 1億ドル以上の売上高の会社又は1億ドル以上の時価総額の金融機関
  • プライベートエクイティ、ヘッジファンド、又はプライベートエクイティ・ヘッジファンドが過半数を支配する会社
  • 個人用の防護服等、コロナウイルスによる危機に影響を与える独占的特許を有している会社

独禁法上の手続との関係

Pandemic Anti-Monopoly Actは、上記に加えて、FTCへの届出が必要とされるM&A取引も中止するものとしています。

米国の独禁法の一つであるHSR法(Hart-Scott-Rodino Act)では、3億7600万ドル以上の取引は例外なくFTCへの届出が必要であり、9400万ドル-3億7600万ドル以下の取引は、当事者の規模に応じて届出が必要になる可能性があります。

また、新規のM&A取引を中止するだけではなく、現在独禁法上のクリアランスがペンディングとなっている案件についても、モラトリアム期間中は待期期間をストップさせることが企図されています。

背景と目的

ウォーレン議員によるサマリーによれば、新型コロナウイルスの危機に乗じた、プライベートエクイティによる安値での企業買収や、IT大手によるスタートアップの買収による寡占化・独占化に対する懸念が背景にあり、Pandemic Anti-Monopoly Actの主な目的は小規模事業者(small businesses)の保護にあります。

しかしながら、Pandemic Anti-Monopoly Actの対象は、以上に述べた通り1億ドル以上の売上高の会社等、一定の規模以上の企業による取引を制限するものであり、新型コロナウイルスによって危機的な状況に陥った小規模事業者の保護が十分なされるかは疑問の余地があります。

仮に本法案が通った場合、かなり広い範囲でM&A取引が影響を受けることになりますので、今後の動向に注意が必要です。