希薄化防止条項(3):加重平均法(weighted average)

ブロードベース(Broad-base weighted average)

フルラチェットと異なり、加重平均法(weighted-average)の場合、転換価額の変化が小さくなります。ダウンラウンドで発行される株式数が大きいほど、より転換価額の下げ幅が大きくなり、逆にダウンラウンドで発行される株式数が小さければ、転換価額の下げ幅は小さくなります。NVCAのモデル定款では、以下のような算定式で転換価額が調整されます。

CP2 = CP1 * (A + B) ÷ (A + C)

CP2: 調整後のSeries A 転換価額

CP1: 調整前のSeries A 転換価額

A: 新規発行前の発行済普通株式数
(発行済普通株式、優先株式(普通株式への転換後ベース)、発行済オプション(行使後ベース)の合計)

B: 新規発行による調達額合計を、CP1で割ったもの

C: 新規発行される普通株式数

転換価額の変化

具体的な数値で考えてみましょう。

ベンチャー企業A社に対して、VCが$5Mで5百万株のSeries Aを出資し、創業者が普通株式を10百万株保有しているとします。

上記の算式の定義に基づくと、CP1=$1、A=15Mとなります。

(1)A社が2百万株のSeries Bを$3Mで発行した場合

Series Bは一株1.5ドルで発行されているため、転換価額の調整は行われません(ダウンラウンドではない)ので、CP2は$1のままです。

(2)A社が2百万株のSeries Bを$1Mで発行した場合

B=1M/1、C=2M であるため、
CP2=1*(15+1)/(15+2) =16/17 (≒0.94)

となります。

フルラチェットの場合は転換価額は$0.5となるので、転換価額の下落幅はかなりマイルドです。

(3)A社が20百万株のSeries Bを$10Mで発行した場合

B=10M/1、C=20M であるため、
CP2=1*(15+10)/(15+20) =5/7 (≒0.71)

となります。(2)の場合と比べると、転換価額の下落幅が大きくなっています。

新規の発行株式数をさらに大きくすると、フルラチェット($0.5)の場合にだんだんと近づいてきます。

ナローベース(Narrow-base weighted average)

ナローベースの場合は、上記の算定式のうち、Aの定義が異なり、実際に発行済みの普通株式のみが含まれ、発行済オプション等が除外されます(優先株式も除外されることがある)。ナローベースのほうが、ブロードベースよりAの数が小さく、転換価額の下落幅が大きくなるので、投資家にとって有利です。