米国におけるエンジェル・ファイナンス(4): Convertible Noteの問題点

第3回の記事では、Convertible Note(コンバーティブル・ノート)の転換価額を定めるうえで重要なディスカウントとバリュエーション・キャップの概念について検討しました。今回の記事では、Convertible Noteの持つ問題点について検討します。

発行会社にとっての問題点

Convertible Noteは、シード段階では困難であるバリュエーションの合意をシリーズAまで遅らせることができる、優先株式に比べてドキュメンテーションの費用・手間がかからないといった利点がありますが、一方で問題点もあります。

発行会社にとっては、Convertible Noteが満期時点での元本返済義務のある負債であることから、返済期限が近づくとその対応に追われ、場合によっては不利益な条件を飲まざるを得ないという問題があります。

また、エンジェル投資家にとっては、優先株式と同様のプロテクションが確保できないという問題があります。

VCにとっての問題点

一方、シリーズA投資家であるVCにとっては、清算時におけるエンジェル投資家への残余財産分配(Liquidation Preference)が過剰に支払われるという問題(Liquidation Overhang)が生じます(以下、「The Problem in Everyone’s Capped Convertible Notes」参照)。

前回の記事における事例を用いると、Capが$4M、Post-money Valuationが$20Mの場合、シリーズAの優先株式は56.25株(エンジェル投資家25株、シリーズA投資家31.25株)発行されることになります。

優先株式のLiquidation Preferenceが1倍であるとすると、シリーズA投資家は31.25株の優先株に対して$4MのLiquidation Preferenceを有することになり、エンジェル投資家は25株の優先株式に対して$3.2MのLiquidation Preferenceを有することになります。

しかし、元々エンジェル投資家は$1Mしか投資をしていないので、実質的には3.2倍ものLiquidation Preferenceを有することになります。

この$2.2Mの差額がLiquidation Overhang(過剰)と呼ばれるものであり、特にシード段階からシリーズA段階にかけてバリュエーションが高騰した場合に顕在化する問題です。

仮にシリーズA調達直後に清算(またはそれに準ずるイベント)が生じたとすると、シリーズA投資家は、自己が投資をした$4Mのキャッシュのうち、一部(4/7.2)しかLiquidation Preferenceとして戻ってこないことになり、残りはエンジェル投資家に支払われてしまいます。

シリーズAの調達時点でのPost-money valuationが高くなり、シリーズAの支配権をエンジェル投資家が取得することになった場合(これまでの事例でいえば、Post-money valuationが$40Mになった場合)、問題はさらに深刻化します。

すなわち、シリーズAの支配権を有するエンジェル投資家は、Liquidationを強行し、シリーズA投資家が投資したキャッシュの一部をエンジェル投資家に移転することが可能になる場合があります。

エンジェル投資家は資本コストが低いため、新規に投資するシリーズA投資家よりもアーリーエグジットを求めるインセンティブが高くなり、エンジェル投資家とシリーズA投資家との間で利害が相反する結果になります。

Liquidation Overhangを解消するための対策

Liquidation Overhangを解消するための対策としては、エンジェル投資家に付与されるLiquidation Preferenceがエンジェル投資家の投資額と同一になるように、

① Convertible Noteから転換される優先株式数を調整し、残りを普通株式に転換する

② エンジェル投資家にはシリーズAとLiquidation Preferenceの額以外は同条件のサブシリーズ(例:シリーズA-1)の優先株式を発行する

という手法が考えられますが、ドキュメンテーションがより複雑になるという問題もあります。