優先的引受権(Pre-emptive right)

プロラタでの優先的新株引受権

フェアバリュー以下での新株発行による経済的な意味での希薄化を防止する手段として、優先株主には新株発行時におけるプロラタでの優先的引受権(Pre-emptive right、Pro Rata Participation Right)が付与されることがあります。

Pre-emptive rightは、会社法上デフォルトで規定されているものではなく、Investor Rights Agreementにおいて、投資先会社が優先投資家に対して負う義務(covenants)の一つとして規定されるものです。

Right to Participate Pro Rata in Future Rounds: “All [Major] Investors shall have a pro rata right, based on their percentage equity ownership in the Company (assuming the conversion of all outstanding Preferred Stock into Common Stock and the exercise of all options outstanding), to participate in subsequent issuances of equity securities of the Company”

Pre-emptive rightを全ての優先株主に付与すると、少数の優先株主が多く存在する場合、トランザクション・コストが膨大になるため、Majorな投資家にのみ限定する場合もあります。

希薄化防止機能

Pre-emptive rightが、希薄化防止のためにどのような機能を果たすのか、以下の例で説明します。

シリーズA投資家であるVC1とVC2が、A社の株式をそれぞれ40株と60株(合計100株)有しているとし、簡易化のためにそれ以外に発行された株式は存在しないものとします。現状のA社の企業価値が1000ドルであるとします(1株当たり10ドル)。

A社の取締役会が、新規投資家VC3に対し、シリーズAと同順位(pari passu)のシリーズB優先株式100株を200ドルで発行することを決議したとします。

シリーズB優先株式は、1株当たり2ドルで発行されていますので、このままではシリーズA株式の価値は経済的に希薄化してしまいます。

そこで、VC2がPre-emptive rightをプロラタで行使し、VC1は行使しなかったとします。その場合、 VC2はシリーズBの60%(60株)を2ドルで、VC3はシリーズBの40%(40株)を2ドルで購入します。

シリーズBの発行後、A社の企業価値は1200ドル、シリーズAの価値は600ドルとなるため、400ドル分の価値がシリーズA株主からシリーズB株主に移転します。

Pre-emptive rightを行使しなかったVC1のシリーズA株式の価値は、400ドルから240ドルに希薄化しています。一方、VC2はPre-emptive rightを行使することにより、経済的な希薄化はありません(持分の価値が600ドルから720ドルに増えていますが、120ドルを出資しているので、プラスマイナスゼロとなります)。VC1の希薄化した価値(160ドル)はVC3に移転することになります。

ただし、Pre-emptive rightを行使することによって経済的な希薄化をブロックできるのは、新規株式の発行の際に参加できる十分な資金のある投資家に限られます。