VC投資においては、普通株式への転換権付優先株式が発行されるのが通常なので、普通株式のストラクチャー上の変更(株式分割や無償割当て、株式による現物配当など)によって、優先株式の転換請求権や参加権に影響が生じます。
優先株式の転換請求権への影響
以下のような事例で検討してみます。
VC投資家がA社の優先株式5M株を$5M(1株当たり1ドル)で取得したとします。A社の発行済普通株式は10M株であり、A社の企業価値は$15Mであるとします。
ここで、普通株式が2:1に分割されたとします。その場合、普通株式の株数は20Mとなります。
VCが保有する優先株式が、普通株式への転換権の付いていない株式であった場合には、何らの影響もありません(ただし、優先株式に参加型配当・残余財産分配権が付されている場合には、最終的な分配額に影響が生じる可能性があります)。
しかし、普通株式への転換権付の優先株式であった場合は、転換後ベースの持分が33%から20%まで希薄化しますので、希薄化防止のためには何らかの手当てが必要となります。NVCAのモデル定款では、優先株式の転換請求権を保護するために、優先株式の転換比率を調整するという手当が規定されています。
転換比率
優先株式の転換比率とは、優先株式1株が何株の普通株式に転換されるかを表す数値であり、
で算出されます。
優先株式が発行された時点での転換価額は優先株式の発行価額と同一と設定されますので、転換比率は1:1、すなわち優先株式1株は普通株式1株に転換されることになります。
転換比率は、転換価額の変更に応じて調整されます。転換価額が下方に調整されると、転換比率が上昇するので、転換される普通株式の数が増えることになります。
転換比率の調整
NVCAのモデル定款の4.5条では、株式分割が生じた場合の手当が規定されています。
上記の例でいうと、普通株式が2:1に分割された場合、優先株式の転換価額が1ドルから0.5ドルに下方修正されますので、転換比率は1:1から1:2に増加することになります。その結果、株式分割の影響は打ち消されることになり、優先株式の希薄化が防止されます。