タームシートでは、取締役会による新株発行を優先株主がブロックするための保護条項(Protective Provisions)が主に3つ規定されています。
① 普通株式の発行可能株式数の変更の制限
シリーズAの後に新たな優先株式が発行される場合、当該優先株式が転換される普通株式の数の枠をあらかじめ取っておく必要があります。したがって、取締役会が現状の発行可能株式総数の枠を超える転換権付優先株式を発行しようとする場合、完全希薄化後ベースで過半数の議決権を有している優先株主がそれをブロックすることが可能になります。
しかし、枠を超えない新株発行の場合は意味がありません。
② 定款の変更の制限
Protective Provisions: So long as [#, %, “any”] shares of Series A Preferred are outstanding, in addition to any other vote required, Company will not, without consent of holders of at least [x]% of Series A Preferred…
…(ii) amend, alter, or repeal any provision of the Charter [in a manner adverse to the Series A Preferred];
シリーズA優先株式が[●株、●%]発行済みである場合、会社が定款を[シリーズA優先株式に不利な形で]変更する場合、シリーズA優先株主の●%の同意が必要とされています。
新たなシリーズの優先株式(シリーズB、C…)を発行するためには、定款で株式の権利を規定する必要があるため、定款を変更する必要があります。したがって、一定のシリーズA優先株主の同意がなければ、会社は新たなシリーズの優先株式を発行することができません。
なお、シリーズA株式や普通株式の発行については(枠の範囲内であれば)定款を変更する必要はありません。
[シリーズA優先株式に不利(adverse)な形で]というカッコ書きの部分が付されている場合は注意が必要です。デラウェア州裁判所の判例によると、adverseというのは、株主の権利に直接影響を与える変更、例えばシリーズA株式に対するLiquidation Preferenceや配当の金額が変わる場合を意味します。
例えば、シリーズB優先株式が、シリーズAよりも単に優先する(senior)場合には、シリーズAのLPや配当の金額が直接変更されるわけではないため、「株主の権利に直接影響を与える変更」とはいえません。シリーズAに対し最終的に分配される金額が結果として減ってしまうかもしれませんが、それはあくまでも間接的なものとされます。
③ 他の優先証券の発行
Protective Provisions: So long as [#, %, “any”] shares of Series A Preferred are outstanding, in addition to any other vote required, Company will not, without consent of holders of at least [x]% of Series A Preferred…
…(iii) create or authorize the creation of [or issue] any other security…having rights, preferences or privileges senior to or on parity with the Series A Preferred, or increase the authorized number of shares of Series A Preferred;
シリーズA優先株式が[●株、●%]発行済みである場合、会社がシリーズAよりもシニアまたは同順位の権利を有する他の証券の発行を行うためには、シリーズA優先株主の●%の同意が必要とされています。
本条項が存在することによって、②のカッコ書きがある場合にカバーできなかった新しいシリーズの優先株式の発行をブロックすることができます。
しかし、新しいシリーズの優先株式がシリーズAよりも劣後(junior)する場合には、本条項でもその発行をブロックすることはできません。シリーズBがシリーズAよりも劣後する場合であっても、普通株式への転換条件次第で、将来的にシリーズAに分配されるLiquidation Preferenceの額が減る可能性があるので、経済的な希薄化が間接的に生じることがあります。