タームシートのOffering Terms(募集事項)には、優先株式の投資条件が記載されています。
今回は、投資金額や株数を決定する上で重要なプレマネー(Pre-money)、ポストマネー(Post-money)の考え方について、説明します。
プレマネー・バリュエーションおよびポストマネー・バリュエーションは、タームシートにおける最も重要な項目といえる一方で、誤解がされやすい概念でもあります。
Pre-money Valuation
Pre-money Valuationとは、VCによる投資直前の企業価値と推定されるものです。
VC投資家は、異なる価値算定手法や要素を用いて、Pre-money valuationを決定します。
Pre-moneyにおける1株当たりの株式価値は、
となります。(数値は前回の記事のOffering Termsを使用します。)
完全希薄化後(Fully-diluted)株式数とは、全ての株式が普通株式に転換し、オプションが行使されたと仮定するベースで算出される株式数の合計です。
Post-money Valuation
Post-money Valuationとは、投資直後の企業価値と推定されるものです。
ここでは、VCによる投資金額(現金)の分だけ、Pre-moneyの状態から企業価値が増加するという前提が置かれています。
($15M = $10M + $5M )
VCの投資直後の持分は、
となります。
優先株式1株は普通株式1株に転換可能であるとすると、シリーズAの優先株主であるVCは、投資直後の完全希薄化後ベースで33.3%の持分を取得することになります。
VCの取得する優先株式数は、
となります。1株当たりの発行価額は、投資前の1株当たり価値($1)と同じになります。
Valuationに関する誤解
上記のValuationの計算例では、創業者や従業員が保有する普通株式と、VCが投資する優先株式の一株当たりの価値は同じであるという前提が置かれています。
しかし、後に解説するように、優先株式は普通株式よりも残余財産分配権において優先する(Liquidation preference)ので、普通株式の1株当たり価値は、優先株式よりも低いはずです。したがって、VCが1株1ドルで優先株式を5M投資したとしても、Post-money Valuationは$15Mよりも理論上低くなるはずです。
ユニコーンと呼ばれるスタートアップ企業の企業価値は、Post-money Valuationベースで非常に高く算出されますが、優秀なエンジニア等を引き付けるための報酬として発行されたオプションの価値は、巷で言われるバリュエーションよりも低いといえるのです。